銀の弾などない
情報
訳者:滝沢徹
目次
- 第1章 タールの沼
- 第2章 人月の神話
- 第3章 外科手術チーム
- 第4章 貴族政治、民族政治、そしてシステムデザイン
- 第5章 セカンドシステム症候群
- 第6章 命令を伝える
- 第7章 バベルの塔は、なぜ失敗に終わったか?
- 第8章 予告宣言する
- 第9章 5ポンド袋に詰め込んだ10ポンド
- 第10章 文書の前提
- 第11章 1つは捨石にするつもりで
- 第12章 切れ味の良い道具
- 第13章 全体と部分
- 第14章 破局を生み出すこと
- 第15章 もう1つの顔
- 第16章 銀の弾などない ――ソフトウェアエンジニアリングの本質と偶有的事項
- 第17章 「銀の弾などない」再発射
- 第18章 『人月の神話』の命題 ――真か偽か
- 第19章 『人月の神話』から20年を経て
書評などなど
本著の初版は1975年である。内容は当時の開発環境を踏まえ、システム開発をする上で抱える諸問題を推察し、それらを解決するための方法を考察した内容になっている。その根深い諸問題を「月夜に現れる狼人間」に例え、それに対する特効薬「銀の弾」は存在しないと語った『第16章 銀の弾などない』はあまりに有名だろう。
聞いたことがないという方も、エンジニア業界に身を置いているとコンサルの人とかが語っているのを一度くらいは聞くことになるかもしれない。その時は、元ネタは本著『人月の神話』である。
とはいえ「特効薬はない」という結論で理解が止まっていては意味がない。ソフトウェア開発の現場では、新たな開発の新機軸が次々と開発されており、それら利用し普及させていくことが改善に繋がるとしている。
本著で語られる新たな開発の新機軸は、1975年当時の最先端であることは留意すべきかもしれない。しかし、オブジェクト指向や自動テストといった技術は、現在の開発現場で使われているスタンダードである。いや、現場によっては最先端かもしれない。
そういった今の開発現場の下地が形作られている歴史や意味を知るには、本著以上にぴったりな書籍は存在しないのではないだろうか。また、1975年当時から20年経って改版がなされ、それまでの歴史も踏まえた新章が追加されている。
未だに読んでも古臭さを感じないよう工夫がされており、とても読みやすい。
本著の読みやすさを担っているのは、馴染みやすい比喩表現と、実際のデータを組み合わせた分かりやすい説明である。なんとなく、本著を難解な書籍と思っている方もいるかもしれないが、とても読みやすい文章になっているのだ。
例えば。
本著のタイトルにもなっている『第2章 人月の神話』では、工数と人員の関係について論じられていく。簡単にまとめると、「「1人でやった場合、一ヶ月かかるタスク」に対し、人員を2人割けば半月で終わるはず」という暴論に徹底的に反論しているという内容だ。
「「1人でやった場合、一ヶ月かかるタスク」に対し、人員を2人割けば半月で終わるはず」という意見に対し、あなたは暴論と思うだろうか? それとも、納得するだろうか?
実際にエンジニアとして開発現場で働いていれば、人員追加=作業スピードアップされないということは共通認識だ(……ですよね?)。幸いなことに、ブログ主はそのような者に遭遇したことはないが、現場を知らないで上から指示を出すだけの者は、その認識がなかったりするのだと語られている。
1975年当時、開発環境がこれから発展していこうとしていた時はそのようなことを共通認識としなければいけなかった。本著の偉大な功績が分かっていただけたのではないだろうか。
今となっては当たり前となることも書かれているが、その当たり前に感謝しつつ、再認識することの重要性を噛みしめて欲しい。
本著はエンジニアというよりは、エンジニアに指示を出す者達に読んで欲しい。エンジニアの思考、開発しやすい環境を整えるのは、エンジニアだけでは限度がある。上の人達の協力も絶対に必要不可欠なのだ。