「狂暴で手に負えない少年」の真実
情報
著者:宮口幸治
発行:2019年7月26日
目次
- 「反省以前」の子どもたち
- 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
- 非行少年に共通する特徴
- 気づかれない子どもたち
- 忘れられた人々
- 褒める教育だけでは問題は解決しない
- ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
書評などなど
本著書は、元精神科医で少年院の法務技官として働いていた筆者が、そこで遭遇した生の体験をまとめ、それにより教育現場で生じている問題点を列挙、最後にその解決案を提示している。
生の体験の代表として上げられているのが、タイトルにもなっている「ケーキの切れない非行少年たち」だ。その言葉が指し示す通り、ケーキを指定の数に等分するように指示されても、等分することができないという認知の問題を、非行少年たちの多くが抱えているというのだ。
そのような非行少年たちの問題は、それだけではない。
個人的にかなり衝撃的だった内容として、「そもそも反省ができない」という事例だ。犯罪を犯した少年たちを、少年院に収監するのは「非行少年たちの反省を促す」という大前提の目的がある。その反省が ”そもそも” できないというのだ。
筆者が少年院の非行少年たちに、『少年院に来てみてどう感じているかと尋ねてみても、ニコニコして「まぁまぁ」「楽しい」と答え』たという記述がある。つまり、自分が罪を犯したということを認識しておらず、どうして少年院にいるのかを理解していない。
こういった衝撃的な実際の事例の紹介が、第二章『「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年』まで続き、第三章『非行少年に共通する特徴』ではそれらをまとめて共通点でくくっていく。ここで、それまでの事例が理論立てて繋がっていく。
そもそも少年たちにはケーキがどうして切れなかったか?
一言で説明できる問題ではないが、つまり非行少年たちからは、そういう風にしか世界を認識できなかったのだ。それらを『認知機能の弱さ』『感情統制の弱さ』『融通の利かなさ』『不適切な自己評価』『対人スキルの乏しさ』『身体的不器用さ』といったように順序立ててまとめられていく。
例えば、授業で先生に注意された時、認知機能の乏しい少年たちは、「先生にどうして注意されたのか?」「何を言われたのか?」を理解できない。ただ怒られたという事象だけが残り、感情統制の弱さによりストレスの発散先は、自分よりも弱い子供に向かっていく。ストレスの発散を、犯罪ではなくもっと別の方向に向かわせるだけの融通があれば、非行少年にはならない。
そういった悪循環を押しとどめるのは、家庭や教育現場であるべき。しかし、そういったことができていないのも実情であるようだ。そういった状況と原因も説明されており、納得度は大きい。
本著では『病名のつかない子どもたち』というように説明されている、知的障害の定義に合致しない支援を必要としている子供達。彼らは本来ならば、特別な支援が必要だった。それなのに定義に合致しないという理由で、「不真面目」「怠けているだけ」「性格的な問題」というレッテルを貼られ、どうしようもなく抜け出せない悪循環に陥っていく。
そういった子供達への支援の方法として、最終章『ではどうすれば? 1日5分で日本を変える』でまとめられている。特に大事なこととして、気づきと自己評価であるとされ、それらを向上させられるような体験を、簡単にできるようなトレーニングとして、コグトレというものが提案されている。
このコグトレ……この中ではあまり説明されていない。『詳しくはそちらをご参照ください』として、教材が書かれており、調べる限り似たような書籍はいくつかあるようだ。コグトレ研究会なるものもあるらしい。
本著のメインは、そういった解決策の提示よりも、問題提起に主眼を置いているという印象を受けた。少年院での事例を出発点として、子供達への教育で起きている問題点、それらは現状のままでは解決できないという問題提起にまでかなりの章を割いている。
ただ教育の現場に立つ教師が、本著に記載されているような事象があると知るだけでも、大きな一歩となるのではないだろうか。