哲学がどう役に立つか
情報
著者:山口周
目次
- プロローグ
- 「人」に関するキーコンセプト
- 「組織」に関するキーコンセプト
- 「社会」に関するキーコンセプト
- 「思考」に関するキーコンセプト
書評などなど
哲学という学問の歴史はかなり古いが、義務教育で取り扱われることもなく、その内容について知っている者も学ぼうとしている者も少ない。そんな哲学について学ぶ意味というものを、様々なコンセプトに基づいてまとめたのが本著である。
プロローグにおいて、ビジネスパーソンは哲学を学ぶべきだと断言されている。その理由について、4つ説明されている。
筆者自身の経験に基づいて、もう少し功利的な側面から、哲学・思想を学ぶメリットについて述べたいと思います。理由は大きく次の4つになります。
- 状況を正確に洞察する
- 批判的思考のツボを学ぶ
- アジェンダを定める
- 二度と悲劇を起こさないために
なんというか抽象的な文言が並んでいるが、それぞれちゃんと詳しく説明されていくので安心して欲しい。それぞれ筆者の実体験の中で、哲学・思想の学習を通して得た思考の種が生きた例がまとめられている。
例えば。
「3.アジェンダを定める」は、その文言だけでは良く意味が分からないかもしれない。アジェンダというのは課題という意味だが、「イノベーションを起こす企業では、このアジェンダ設定がしっかりしている」のだという。そのイノベーションの必須条件ともいえる課題設定で役立つのが、哲学だというのだ。
イノベーションというのは、常に「これまで当たり前だったことが当たり前でなくなる」という側面を含んでいます。これまで当たり前だったこと、つまり常識が疑われることで初めてイノベーションは生み出されます。
この常識を疑うことというのは思いのほか難しい。しかし哲学ではとても大事な思考のプロセスの一種となっている。疑うこと=物事の真理を知ること、とされる懐疑主義などが分かりやすい。まず自分が存在しているかどうかさえ疑った哲学の歴史は、紐解いていくと面白い。
そこに面白さを見いだせない人(見いだせる自分が少数派だとは思う)にとって、そういった哲学のキーコンセプトは、自分には関係ない程遠いものだという固定観念があるように感じる。
古代の哲学者ソクラテスが唱えた「無知の知」は、「知らないことを自覚することの困難さ」を示しており、哲学における出発点とされている。本著においては『「思考」に関するキーコンセプト』で紹介されている「無知の知」では、学習のプロセスを下記のように整理している。
- 知らないことを知らない
- 知らないことを知っている
- 知っていることを知っている
- 知っていることを知らない
大半の人は物事に対して『知らないことを知らない』状態でしょう。哲学についても、知らないという方が大半でしょう。しかし本ブログを見て本著にどのようなことが知った時点で、『知らないことを知っている』状態になりました。そこでようやく哲学を学ぶ出発地点に立ったといえるのです。
……とまぁ、「無知の知」なんて自分には関係ないとおっしゃりたい気持ちは分かりますが、今の哲学を知らなかったあなたの状態は説明できる訳です。
哲学を学びたいと思ったとしても、最初に何をすれば良いか分からないという方。「哲学入門」をうたった本はたくさんありますが、本著はそういう風には紹介されていない。「哲学の使い方」が分かるという風に表現されている。
とはいえブログ主としては、本著を哲学を学ぶ入門書として推薦したい。理由としては、哲学入門としてありがちな哲学の歴史に沿った形でまとめられていないからだ。哲学を学ぼうとした時、どうしても歴史に沿って学ばせようとするのは理解する上で大事だが、古代の内容という一番自分から遠く難易度が高い部分から学ぶこととなる。
それは哲学を学ぶ時に脱落していく一要因だと個人的に思う。その問題点が本著では解消されている。また哲学のみならず社会学や教育学といった分野からも学びが得られる。
個々のより詳細について学ぶには、それに適した専門書がある。本著を読んで興味を持てた部分だけでも掻い摘まんで学ぶだけでも、哲学を学んだということになる。是非とも少しでも哲学に興味があるという方は、ひとまず手に取ってみることをオススメする。