社会人のメモ帳

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ヒューマニティーズ 教育学 書評

教育学とは何か

情報

著者:広田照幸

発行:2019年3月21日

目次

  • はじめに
  • 教育論から教育学へ
  • 実践教育学と教育科学
  • 教育の成功と失敗
  • この世界に対して教育がなしうること
  • 教育学を考えるために

書評などなど

まず大前提として、ブログ主は教育業界に身を置いている人間ではない。教育学の「き」の字も知らないド素人であるが、教育という分野に興味だけあるという社会人だ。

さて、教育を学びたいとした時、何から手を出せば良いだろうか……ネットで検索したところで何も分からず、難しい書籍ばかりがオススメに出てきて頭を抱えた。そんな中、岩波文庫から出ているヒューマニティーズシリーズの教育学が目に付いた。

『humanities』という英字が表紙で踊っている同シリーズは、社会学政治学、文学といったように、それぞれの学問に対して「○○学とは何か?」という問いからスタートし、意義や定義といった話に踏み込んでいく。教育学も例外ではない。

『はじめに』には、現代教育学は方法学や心理学といった多岐にわたる入り口が用意されており、それぞれを個別に見るのではなく、教育学の全体像を捉えて考えていけばよいか考えるべき、という思考の出発点を提示している。

そもそも教育学には、教育心理学や教育方法学、教材学といったように細分化されているということすら知らなかったブログ主にとって、これは大きな成果である。その全体像や繋がりを、歴史の歩みを学ぶことで理解できるように描かれているのが本著だ。

最終章『教育学を考えるために』では、そういった全体像を学んだ上で、「どのように教育学を学んでいけばいいか」という問いに真摯に答えてくれている。おすすめの書籍が多大に紹介され、それぞれ何も分からない初学者向けや、実践に基づいたエッセイといったようにカテゴライズされているのも嬉しい。

他にも教育に関する書籍は読んでいるが、本著を踏まえてもう一度読み直そうかと思っているくらいだ。

 

教育というのは時代と共に変化している。教育なんて本質は時代が変われど変わらない……と勝手に思っていた認識は、早々に捨て去られることとなる。

個人的に印象に残っている話がある。

ヨーロッパ近代となって学校が広く普及・拡大してきた要因として、「文字文化の普及」と「身分社会から階級社会への変容」が本著では上げられている。「文字文化の普及」のきっかけとして、印刷技術の発達と、ルターらの宗教革命によって聖書が各国の言葉で翻訳されたことが説明された。

この辺りで歴史における一つの転換期と、教育の大きな転換期が結びついた。歴史の変容が、教育に対して大きな影響を与えていたという考えれば当たり前だが、気にしたことのない物語に気がついたのだ。

そこから教育によって文字が読めるようになった庶民が、その努力次第で社会的地位を獲得できるようになった。ここから教育の機会を平等に与えるという大きな転換期まで、多くの時間と犠牲があるのだろうと夢想する。

そういった歴史的読み物として、(少なくとも)ブログ主は楽しく読むことができた。

他にも今では当たり前である教師一人に対して生徒が複数人で行われる授業形式の教育が形作られるまでに、多くの哲学者や教育者が議論や意見交換を行っていく過程が、歴史という形で語られる。

その物語が面白い。

 

歴史についてばかりではなく、現代の話も書かれている。どちらかといえば、現代における教育学の立場というものを批判的に書いており、学ぶ意義や目的について改めて確認するような内容になっている。

教育学とは。実践によって得られる学びや知恵を、体系的にまとめあげて広めていくことができる学問であり、それこそ教育学者がすべきことである。こんな一行でまとめられるものではないが、少なくともそう理解した。

まだまだ教育について学び始めたばかりのブログ主にとって、読みやすく、しかし読み応えのある一冊であった。