企業のリーダー層に向けた「アジャイル」と「スクラム」の開発書
情報
著者:平鍋健児, の中郁次郎, 及部雄
発行:2022年1月20日(第二班)
目次
- アジャイル開発とは何か
- なぜ、アジャイル開発なのか
- スクラムとは何か?
- アジャイル開発の活動
- アジャイルの進化とスケールフレームワーク
- NTTコムウェアにおけるカルチャー変革の航路
- アジャイル受託開発を成功させる~ ANAシステムズと永和システムマネジメントによる共創開発に至る道のり
- 小さな成功から築き続けるIMAGICA Lab.のアジャイル文化
- KDDI IDGITAL GATEにおけるスクラムチームファーストな働き方
- 竹中・野中のスクラム論文再考
- スクラム知識創造
- スクラムと実践知リーダー
書評などなど
なんとなくのイメージで作業を進めると、ドツボに嵌って失敗するといった経験をしたことはないだろうか。想像と現実のギャップに苦しんだ挙句、その作業を途中で投げ出して失敗した……何ということが、この社会では珍しくない。
アジャイルという言葉を、IT業界を生きている者ならば聞いたことがあるはずだ。かくいうブログ主も幾度となくアジャイルという言葉を聞き、関わりそうで関わらないという奇跡のような距離感を保ってきた。その奇跡もいい加減限界が来て、風の噂でしか知らなかったアジャイルの現場に放り込まれそうになっている。
……という訳でアジャイル開発に関連する本を探して手に取った一冊が本著である。他にも何冊か購入し読んだのだが、読んでいて一番面白かったため、最初に書評を書くという形で紹介させていただく。
本著は三部構成になっている。一部では「アジャイルとは」「スクラムとは」という概念的な話が説明されていく。
どういった経緯でアジャイルという開発プロセスが作られたか、アジャイルで用いられるスクラムという体制について、概念的な部分から具体的な内容までまとめられている。
アジャイルが登場していくらか経つが、現在においても大半の開発現場、特に車業界ではウォーターフォールによる開発プロセスが主流だ。要件定義から基本設計、詳細設計からテストに至るまでの工程が順番に行われ、最終的に動く製品が出来上がるウォーターフォールでは、(理想では)高い品質が担保される。
しかしこのプロセスでは、半年もすればトレンドが塗り替わってしまうような市場を相手取った時に、あまりに開発速度が遅すぎた。開発途中で仕様変更をしたいと顧客が思っても、ウォーターフォールでは対処できないという実情がある。そこで、動く製品をとりあえず作り設計とテストのプロセスを何度も繰り返すことで製品を成長させていくという方法で、開発を進めていくアジャイルというものが考え出された。
これにより顧客の要望にいち早く答えることができるほか、優先度の高い機能から実装していくという考え方のため、無駄なく開発を進めることができるというメリットもある。「なんだメリットばかりではないか」と思われるかもしれないが、それでもアジャイルがIT業界の全体に浸透していないのには、それなりの理由がある。
「なんだメリットばかりではないか」と考えて、とにかく形だけのアジャイルを導入するようなことをして失敗を重ねているからである。
そもそもアジャイル開発の根本には「アジャイル宣言」というものがある。
- プロセスやツールよりも個人と対話を
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
- 契約交渉よりも顧客との協調を
- 計画に従うことよりも変化への対応を
かなー-り端折ってはいるが、根本は上記の四つの文章であろう。ただここだけを見てアジャイルとはどういったものかを判断してはいけない。
第二部から第三部では、アジャイル開発を実際に取り入れた現場のリーダーにインタビューし、その苦労や結果をインタビューした内容がまとめられている。これが本著において最も読むべき場所になる。
第一部の内容に関しては、アジャイルという言葉をタイトルに関した書籍と被る部分が多い。別にこの本でしか学べないという知識ではない。ただ実際に導入することでぶつかった壁や、それを受けてどういう対応をしたのかは実に学べることが多い。
そもそもアジャイルの考え方として、導入していきなり上手くいくということは想定されていない。失敗して反省し、改善していくことで現場ごとに合わせたアジャイルの形を模索するという開発手法だといえる。そのため決まりきった正解というものはなく、「スクラム」というものも一個の解……いやヒントのようなものとでも表現すべきかもしれない。
ただ事前にそういった『失敗が前提としている』ということを知っていて、それに対する心構えがあるかどうかで、参画する上でのモチベーションが変わってくる。
アジャイル開発に関わるという上での心構えを決めることができた一冊だった。これからアジャイルに関わるという方は、第二部と第三部だけ目を通すだけでも変わってくるのではないだろうか。